第9話  火の樹

(BS隊  円城寺 守)


 プロメテウスが天に昇ってゼウスの二輪車から松明に移し盗んだ火は、前回述べ

た火山の火だったのかも知れない。しかし、このように貴重な火もいずれ消えてし

まう。そこで、なんとかして、火をいつでも得らるようにと、様々な努力が展開す

る。見方を換えれば、近世に至るまで、人間の文化そのものが火を得るための戦い

であった、ということもできる。

 人類が遠い昔から行ってきた火をつくる一般的な方法は、木と木を擦り合わせて、

摩擦によって点火させるものだった。これには、直線的に往復させる方法と、回転

させる方法とがある。どちらも、窪みのある木(臼)に割った木(杵)を強く押し

あててその摩擦を利用するもので、この方法の発見がなければ、今日の我々は存在

していなかったかもしれないのだ。

 発火用の杵、臼として昔から使われてきた木の材質には、時代や地域によって違

いがある。弥生時代まで我々の祖先が選択したのは、タブノキとスギであった。そ

れ以降はヒノキが使われた。日本に広く分布する木の中で、材質が緻密で適当に硬

く発火性がよいことが最大の理由であろう。

 桧(ひのき)、火の樹。焚火に入れると

はぜて、ぱちぱちとよく燃える。薪として

の材木の特性のうち、火つきがよく火力が

強い点で、桧は素晴らしい材料だ。ただし、

火のもちはあまりよくない。最近は花粉の

せいで悪者扱いされている杉も、似た性質

をもっている。(炊事章2.の課題に関連)

 桧はヒノキ科の常緑高木。日本特産種で、高さ30〜40mに達する。樹皮(ひわだ

=桧皮)は赤褐色で、細かく裂いて縄などに用いる。葉(ひば=桧葉)は小鱗片状で

枝に密生。雌雄同株。材は帯黄白色、緻密で光沢・芳香があり、耐水性が強いため、

諸材中最も用途が広く、建築材として最良。桧舞台とは、もともとこの材で張った

格のある舞台のことだ。チャボヒバ、クジャクヒバなど、葉の美しい園芸品種もあ

る。

 あすなろ(翌桧)というヒノキ科の常緑高木もある。桧によく似ていて、「大き

な桧に明日は成ろう」というアレ。

                           (平成6年5月号)

前の話←     →次の話

戻る

つくば第1団TOPに戻る